メンズ・ファッションのデザインとkolor
2022年の春夏シーズンがスタートします。店頭にはディストリクトとの付き合いが深いkolorのアイテムが続々入荷中です。このタイミングでクリノが考えたのは「メンズのデザイナー服とはなんだろう?」というもの。どうやってデザイナー服と付き合い始めたのか、過去をさかのぼってみます。
ディストリクトをご愛顧いただいている皆様こんにちは。2022年もよろしくお願い致します。
洋服の小売り屋にとって最もたのしく、たいせつである‘立ち上がり’の時期となりました。
そこでスタッフにもお客様にも重要なブランドの一つであるカラーという存在について、このタイミングであらためて考えてみました。
ディストリクトにはオリジナルと仕入れ商品が共存しています。トラディショナルなものとクリエイティヴなものも共存しています。いずれも提供する我々にとって我が子のように可愛く、家族のようにたいせつなものたちなのですが、ここで‘メンズのデザイナー服’とはなんだろう? という主題から考察していきたいと思います。
1977年にファッション小売業に入った僕にとって、男性の服とはシンプルで質が良くて何年も着られるもの、という自分なりのテーゼがありました。そこに‘デザインされた服’という視点は無かった、と言っても良いでしょう。
20代前半以前の僕は‘ロック少年’だったので、装いのお手本はビートルズやローリング・ストーンズであり、後にはジェームス・テーラーの影響でシャンブレーのシャツを着て、やがてデヴィッド・ボウイがスタイル的にも精神的にも僕のアイコンとなりました。そこからブライアン・フェリー的なひねくれたダンディズムを知ってクリノのスタイルは落ち着きます。
その頃に洋服のメイキングや質を深く知るようになったことで、僕のメンズ・ファッション観/感は一旦固まります。
しかし1982年頃にマーガレット・ハウエルの商品を買い付けるようになって僕は新たな一歩を踏み出します。‘メンズ・ファッションにデザインというものがあって良いのだ’ということを教えてくれたのがマーガレット・ハウエルでした。それでも彼女のデザインはシンプルでトラッド・マインドです。
そして一歩を踏み出すということは2歩目も3歩目もある、ということ。店長、バイヤー、ディレクターと歩むうちにクリノの‘着るモノのキャパシティー’は広がっていきます。
おそらく80年代中期以降のクリノに最も影響を与えたのは英国の雑誌『iD』や『FACE』、イタリアの雑誌『L’Uomo』『Vogue』等でしょう。他にも女性ファッション誌もよく見ていましたが、ファッションに‘新たな自由’が登場した時期といえます。
やがて1985年に初の欧州買付出張に行き、そこでロンドンの老舗や新進ブティック、イタリアではジヨルジオ・アルマーニのお店などを見学し、パリではエルメスやエミスフェールのようなフレンチ・アイビーの聖地を訪れ感動するわけですが、同時にコムデギャルソンやヨージヤマモトのショップやショウを観る機会も得て、クリノの目は開眼しました。
何に対しての開眼?
それは
①日本人デザイナーの創造性
②日本と西欧の洋服に関する歴史や価値観の違い
③ファッションにおけるオリジナリティの重要さ……です。
37年前、クリノが30代前半に見聞きしたモノはその後の価値観に大きく影響しました。
ファッションにおいてデザインの範囲というものは、ウィメンズほど自由ではないにせよ、メンズにおいてももっと広い世界があって良いのだ、デザイナーとは、そのオリジナルな服を世界観をカタチにする仕事なのだ、と認識したのです。
こうしてクリノの新たな服との付き合いが始まりました。先に述べたマーガレット・ハウエルからスタートし、ポール・スミス、ジョルジオ・アルマーニ、クローラetc……様々な服を着ました。日本ではTubeの服も大好きでした。
そして85年にパリで認識した‘日本人デザイナーのオリジナリティ’はさらに強く自分の価値観や美意識に刻まれていきます。80年代からブランド側のご厚意でCDGのショウは連続して拝見してきました。そして1992年、パリでドリス・ヴァン・ノッテンのショウを観ました。英国的なトラッド・センスがありながら、バランスやモチーフがユニークなドリスさんの服……。それはUAのメンズの品揃えにとっても、僕個人の美意識や価値観の拡張においても最重要な出会いであった、と言えるかもしれません。また同じころにコムデギャルソン・シャツの扱いが始まりました。コムデギャルソン社とのお取引が始まったのです。
この2ブランドは今でもディストリクトのメイン・ブランドとなっています。
そしてカラー。その前身であるppcm時代の10年間、カラーを立ち上げてからの17年間、僕達はデザイナーの阿部潤一さんと27年間お付き合いしてきたことになります。ppcm時代にパリのトラノイという合同展示会に出展していたppcmのメンバー達と晩御飯に行った帰り、刃物を持った若者に追いかけられたりしたこともありました。様々なエピソードもありつつ、こうしてディストリクトの22年目、カラーの17年目で引き続き良い関係でお仕事させていただけていることには感謝しかありません。
カラーの、そして阿部潤一さんのクリエイションの魅力とは……数々ありますが、一言で言うならば‘オリジナリティ’に尽きる、と思います。他のどのブランドにも似ていないのです。当たり前のようで最も難しいこと。なおかつ、ディストリクトで重要なのはその‘トラッド・マインド’です。けっして非現実的な服では無い。
カラーはパターンが優れている。一般に軽視されがちな後ろ姿にも注力できる背景はそのパターン力だと思います。
カラーは色使いが独特。他のどのデザイナーのものとも似ていない独特な色合わせ。
カラーは縫製が綺麗。特にジャケットやパンツの縫製は素晴らしく、いまだに進化しています。
カラーは値段が健全。けして安価ではありませんが、素材の独自性、縫製グレードで納得。
カラーは納期が早い。これはビジネスとして当たり前のようでいてなかなか難しいポイント。
カラーはトラッド・マインドながら、全く独自のデザイン・センスがある。
カラーはユーモラス。毎シーズン、プリントTシャツの柄やメッセージが楽しみです。
カラーはエンターテイナー。リアル・ショウも良かったが、COVIDでフィジカル・ショウが難しい……となれば凝った映像を制作。さらに今春は観客を小旅行に連れ出してくれた。
まだまだ書ききれないくらいに素敵な要素があります。それは皆さんで発見し、体験してみてください。カラー、そしてカラー・ビーコンの2022S&S商品は続々入荷中です。
では今シーズンも楽しくお洒落してくださいね!
クリノ・ヒロフミ