Districtの名物店員。
知る人ぞ知る、通好みの洋品店。
世界中から、老いも若きも洋服好きな
所謂、「着道楽」が集まる名店、「District」。
2階という場所柄、1箇所しかない入り口のガラスの扉を
開けるのはいつも緊張する。
私は、このお店に20代前半から通っているが
いつも新鮮な気持ちで洋服に接することが出来、
来る度に洋服への想いが昂ぶってくる。
この名店「District」のOPENから在籍する名物店員の
モリエール氏がまた曲者だ。
異常なほど商品知識が豊富で今日もまた・・・
モリエール氏「豊永様こちらが本日、お薦めのmandoのヴィンテージの
ネクタイを使用したベストでございます。」
ジョージ「格好良いですね~」

モリエール氏「こちらの部分が1910年頃イタリアのガブリエーレ・ダヌンツィオがオーダーしたまま引取りに来なかったスカーフの一部だと言われております。」
ジョージ「・・・始まった・・・」

モリエール氏「こちらのピンクの花柄はたしかー・・・もっと後の時代でイギリスの俳優マイケル・ケインが映画『ミニミニ大作戦』でシャツのオーダーをする際に店内の装飾として使用されていたネクタイの一部でしたー。」
ジョージ「・・・えっ本当?・・・」

モリエール氏「そしてこちらはホグワーツ校のアルバス・ダンブルドア校長のナイトキャップに使用された生地のあまりです」
ジョージ「・・・ハリーポッター?・・・」

モリエール氏「そいでもってこちらは日本人のクリノ・ヒロフミ氏がはじめてイギリス出張に出かけた際に名店クローラで購入したスカーフの一部と酷似しておりその色違いのバリエーションではないかと推測されております。」「そしてこちらのパイピングに使用したレジメンタルは証券取引で一財を築いたゴードン・ゲッコー氏のネクタイの生地...結局インサイダー取引で投獄されてしまい、彼のコレクションは競売にかけられたからね。」
ジョージ「・・・相変わらず癖のある見方するな・・・」

モリエール氏「ほれ、この小紋柄の部分はテーブルマナーに問題のあった晩年のハワード・ヒューズがワインをこぼしたネクタイじゃよ」
ジョージ「・・・なんかキャラ変わってきた・・・」

モリエール氏「そしてこちらが・・・なんだったっけねー。たしかマハラジャ・パンコットのチャター・ラルがアスコットタイに使用していた生地だったんじゃないかいねー」
ジョージ「・・ゲッ!あと2着もある!・・・」
ジョージ 思わず「あっもう、これ買うので大丈夫です!」


結局、最後には満足して買ってしまうモリエール氏の接客には脱帽です。
恐るべし名店「District」。
*この話は、全てフィクションです。