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アナタは運が良い
2018-19アンダーカバー
コレクションに寄せて

2018/19秋・冬のアンダーカバー・コレクションが9月15日(土)より店頭に並びます。「今季のアンダーカバーに出会えた皆さんも幸運」という、その魅力とは? クリノが語ります。

ある会社の面接で‘貴方は自分は運が良いと思いますか?’という質問をしたところ、さまざまな答えが返ってきました。
 ‘自分は運というものを信じない’
 ‘世の中は実力次第なので運は関係ない’
 ‘運が良い、という感覚に頼ってはいけない’etc…

そして面接の結果‘自分は運が良い’と答えた人が採用されたのですが、採用された理由は
 1.全て自分の実力次第と思っている人はある意味自信過剰とも言える。
 2.‘運が良い’と思っている人は上記の逆で、ある意味謙虚とも言える。
そして‘自分は運が良い’と思える人は人生や仕事に対するアプローチが前向きでポジティヴなので結果成功する確率が高いから、だそうです。このエピソードはご存知のかたも多いかもしれませんが共感できるところも多いです。

僕もある頃から自分は運が良い……と思い始めました。実際、60年超生きているとネガティヴなことや‘こんなことが自分に起きるんだ! 何故?’ということも多々ありました。流石にそれで一時キモチが落ちた時期もありましたが、おそらくそんなネガティヴ状況から脱しようとした際や、抜け出せたときに‘僕は運が良いのかも’と考え始めた気がします。

何故こんなことを書いているかと言うとアンダーカバーのデザイナーである高橋盾氏、通称ジョニオ氏を見ていると失礼ながらこの人も強運なのではないだろうか? と思えて仕方ないのです。実際、ジョニオ氏についてのさまざまな記事中に“彼は持っているヒト”という言及も多い。

2015年、10月に東京オペラシティアートギャラリーで開催されたアンダーカバー25周年展“Labyrinth of Undercover”での展示や解説、ブランド・ヒストリーを読むなかでもジョニオ氏の強運を感じざるを得ないエピソードが多数ありました。誤解しないでいただきたいのですが、もちろん、ジョニオ氏は人一倍努力しています。それでも努力だけでは不可能的なコトが彼の身辺には起きています。一例を紹介すると、2004年3月のパリ・コレクションに使用予定だったパティ・スミスの自作詩朗読テープが一向に到着せず、氏の手元に届いたのがショウ前夜だった件とか……。この手のエピソードがたくさんあるようです。彼をよく知る人達は‘ジョニオさんは人徳がある’とも言います。2009年6月のピッティ・ウオモのショウにも出演したTaro君は人格者としてのジョニオ氏を心から尊敬していますが僕はそういう発言も多く聞いています。‘運が強い’のは彼の人徳に引き寄せられている、とも言えますね(そのポイントではクリノの強運は単なるポジティヴバカなだけです)。

・カットソー:¥12,960(税込み)

・フーデッドコート:¥43,200(税込み)

ジョニオ氏のカルチャー好きはその作品から常に伝わってきますが、彼は自分が気になるひと、尊敬するひと、会いたいひとには必ず会いに行きます。2005年春・夏のコレクション‘But BeautifulⅡ Homage to Jan Svankmayer'の制作時にはシュヴァンクマイエルに会いに何度もプラハを訪れたそうです。また前述のピッティ・ウオモのコレクションのインスピレーションとなったプロダクト・デザイナーのディーター・ラムズ(ドイツの老舗家電メーカーBraunのデザインで知られる)にも会っているはずです。
またベルギーの画家ミヒャエル・ボレマンスの絵画はウィメンズとメンズで2回使用していますが、本人に会ったばかりでなくボレマンス自身、自作が使用された服を喜んで着ていらっしゃるそうです(下世話な話題で恐縮ですが存命中の画家で最も作品価格が高価と言われています)。ちなみにボレマンス作品の特徴は絵画技法的にはクラシックと言えるタッチで描かれた対象や結果の‘歪み’だと思うのですが、僕はそこにジョニオ氏の服作りのコンセプト&技術との相似も感じます。きちんと作られているからこそウィアードさが際立つ…というニュアンスで。

そんなジョニオ氏は2002年から続けてきたパリでのウィメンズ・コレクションのランウェイ発表を休止し来春・夏コレクションからメンズの発表に切り替えましたが、そのきっかけとなったとも解釈できるのが今秋・冬のメンズ・コレクション。ピッティ・ウオモ協会の招待による2回目のコレクションはタカヒロミヤシタザソロイストとの合同ショウという豪華版でしたが、あの場にいられたクリノはやはり運が良いと痛感しました。‘強い’コレクションをつくる両雄が同じ場所でコレクションを発表し、フィナーレも両サイドからそれぞれ登場して行き交う……すごいショウでした。興奮しました。
しかもアンダーカバーのインスピレーションは‘2001: A Space Odyssey :2001年宇宙の旅’。あのスタンリー・キューブリック監督の問題作にして映画史上、およびカルト・サブジェクト史上間違いなく十指に数えられるであろうSF超大作映画です。僕もテアトル東京で観ました(再上映でした)が1968年にあの映画が公開されてからすでに半世紀が経ったなんて……。その後のあらゆるSF映画に影響を与え、デヴィッド・ボウイの出世作ばかりでなく芸名のヒントにもなった傑作映画である‘2001年……’の使用許可が得られるなんて想像を超える強運ではないでしょうか。しかも当事の資料やプロップは廃棄同様だったそうです。

しかし2018/19秋・冬のアンダーカバー・メンズ・コレクションが素晴らしいのはスタンリー・キューブリック作品の映像や作品ディテールからのヴィジュアルが洋服に使用されているからではありません。たしかに画像やフレーズには‘2001年……’からのネタが多用されていて映画ファンやマニアにはたまらないのですが、なんといっても服自体の完成度が高く、そして‘着易い’ということなのです。

・コーチジャケット:¥70,200(税込み)

・カットソー:¥15,120(税込み)

・コーチジャケット:¥41,040(税込み)

・スウェットシャツ:¥41,040(税込み)

・ブルゾン:¥216,000(税込み)

2018年、現在のファッション界は大きな変革期にあり、それを簡単に分析したり、語ったりすることは難しいのですが、その背景には生活者がこの上なくリアルになっている状況があることは間違いありません。つまり、いかにイマジネーションやクリエイションがハイレヴェルであっても、今求められているのは‘ファンタジーではない’ということなのです。その背景には全世界的な政治や社会のネガティヴ状況が伺えます。

そんなシビアでリアルな生活者に対して、それでも訴え得るファッション……。その好例が今シーズンのアンダーカバーであると思うのです。宇宙船のボーマン船長のサポート役(であったはずの……)コンピューターの名前や映画の中の様々な固有名詞や映画から連想されるフレーズがロゴ化されています。あるいは映画のキモである‘制御不能’という状況/言葉がComputer MalfunctionやHuman Errorそしてショウ全体のテーマでもあるDisorderとして表現されます。ザソロイストとのコラボレーション・ショウのテーマ自体、高橋氏が「order-disorder」、宮下氏が「disorder-order」とだけ決め、あとはショウまでお互いに別々に制作したという事実と制御不能になったコンピューターという映画のフックは完璧に同期化しています。また、それを現代社会への警鐘である、という深読みもできます。

いかがですか? 今秋・冬のアンダーカバー・コレクション。語っても語りつくせない魅力に溢れています。ぜひ店頭で御覧いただき、着てみていただきたいと思います。
今季のアンダーカバーに出会えた皆さんも幸運だと思いますね!

2018年9月 クリノ・ヒロフミ