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in every dream home a heartache

カルヴァン・クラインの指揮をとることになったラフ・シモンズは、今、新たな創造性を発揮しているかもしれない。それはアメリカに居を移したことが原因なのでは……。彼のショウやコレクションから感じたこととは? クリノが語ります。

“創造とメッセージ”ということを時々考えます。

人間の創造の中でも例えば“ART(厳密にはFine Art)”の世界では明確なメッセージを持ち、尚且つ芸術として素晴らしい完成度を見せてくれるものがあります。判り易い例を挙げるとピカソの“ゲルニカ”はスペイン内乱時のナチスドイツによる無差別爆撃を描いた衝撃的で力強い作品として知られています。日本では草間弥生の作品にも強いメッセージがこめられていますし、渋谷駅で観られる岡本太郎の作品は第五福竜丸が米軍の水爆実験により太平洋のビキニ環礁で被爆した際の炸裂の瞬間をテーマにしています。政治や戦争に翻弄される人類の悲劇や世界に絶えない悲惨な出来事はクリエイターたちを刺激するようです。

さて、一見そうした出来事の外にあると思われがちなファッションですが、実は為政者への反抗や世の中の差別に対する抗議が作品になっていたり、或いは創作動機となっていたりするケースは少なくないのです。

何故このような書き出しになったのかと言えば、濱本店長も紹介しているようにラフ・シモンズが米国に居を移してカルヴァン・クラインのデザイン・チームの総指揮をとっているから、それ故、今のアメリカが抱える問題からラフも逃れ得ず、むしろ、そうしたネガティヴ状況故にラフが創造性を発揮しているのかも…と思えるからなのです。説明するまでも無く、昨年の米国大統領選挙の結果アメリカは超保守派のドナルド・トランプ大統領を支持する共和党が支配する国となりました。本来世界中から移民してきた人達によって支えられてきたアメリカ合衆国という国が、その移民に対する排外主義や女性差別、人種差別の指向を持つ大統領の支配下にあるのです。つまり今のアメリカもまた“保守反動”の大きな流れに取り込まれた国となった訳です。

・ブルゾン:¥155,520(税込み)

・ジャケット:¥182,520(税込み)

・ジャケット:¥198,720(税込み)

・シャツ:¥115,560(税込み)

ベルギー人という異国人であり、保守的では無い性的指向を持ち、アーティスト気質でインディペンデント、その結果、常に時代感を身に纏うファッション・クリエイターであるラフ・シモンズがトランプ大統領の支配するアメリカで活動する…そこには我々では推し量りようの無い苦悩があるでしょう。

自由で平和な小コミューンの様なアントワープでは無く、また圧倒的に“個人の自由”を優先するパリ(Dior時代の拠点)でもなく、快楽的ポジティヴ主義者の集団とも言えるミラノ(Jil Sander時代の拠点)でも無い場所。知りあって22年になるラフ君(僕はついついラフ君と言ってしまいます)、あの繊細かつ頑固で優しい男子が無神経の塊の様な連中に囲まれながらどうやってクリエイションしているのか…気になり、心配になります。

・フーデッドパーカ:¥62,640(税込み)
・パンツ:¥90,720(税込み)

・ニット:¥77,760(税込み)

・ショートスリーブニット:¥143,640(税込み)
・ニットキャップ:¥32,400(税込み)

しかし作品を見る限り今の状況はラフ君にとって“ポジティヴに作用している”と言えるのかも知れません。

今年の2月、ニューヨークで観たラフ・シモンズのショウは“ビターな美味しさに満ちた世界”でした。ファースト・ルックはロキシー・ミュージック初期の傑作“In Every Dream Home a Heartache”と共に登場しましたが、物質文明へのラメント(哀歌)とも解釈できる“In Every…”の歌詞では瀟洒な住宅に暮らす男性の姿が歌われます。彼の家の庭にはプールがあり、そこには《パートナー》が浮かんでいるのですが実は彼女は通信販売で購入したビニール製の人形《所謂ダッチワイフ》。男性は彼女に空気を吹き込み(I blew up your body)ますが、結局彼女は彼を破滅させ(but you blew my mind)ます。Blow(blew)という単語を巧みに使ったシニカルで悲痛、かつキッチュなこの歌はブライアン・フェリーというソングライターの知性を感じさせます。

セカンド・ルック以降もラフ好みの英国の曲が多数使われ、それは全体としてラフのねじれた感情や感覚を表すのに最適な選曲でした。服は最近のラフが完成させつつある“ヴォリュームの遊び”や“トラッドと異質感”といったオポジットな要素の組み合わせで刺激的です。フィナーレを観て僕が思ったのは、ラフにとって今のアメリカ社会が如何にネガティヴであるかということ。それ故、彼の知性や反抗心は充実した創作を引き寄せているのだろうということでした。

・Tシャツ:¥35,640(税込み)

・Tシャツ:¥35,640(税込み)

・トートバッグ:¥34,560(税込み)

・バックパック:¥33,480(税込み)

何年も前にスージー・メンケスがコム デ ギャルソンのコレクション後に言ったコメントを思い出します。“今日のレイ(川久保 玲)はきっと怒っているのね。ひとは恋をしているような時より、政治や社会に憤っている時に強くて良い服やコレクションを創るものなのよ”

そう、ラフは憤っているのだ、と僕も思いました。


2017年、9月。
クリノ・ヒロフミ