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理力byモリヤマ

理力コラム VOL.20:「ふたつでじゅうぶんですよ…のふたつめ」

2008.05.19理力byモリヤマ

まさか一度紹介した映画をまたご紹介するなんて思ってもいませんでしたが、昨年は「ブレードランナー」の公開25周年。
デジタルリマスタリングされた「ココまで鮮明に見えていいのか…」というほど綺麗な映像で今までブルーパーとして認識されていた細かなアラ(ハトが飛んでいく空が青い!とか綺麗に修正されている)を修正した「ファイナルカット」なるバージョンがまさかの劇場公開。さらに廃盤になっていたDVDは今までキャプチャー画像でしか目にした事のない「ワークプリント」(「ふたつでじゅんぶん…」はなにがふたつなのかココで明らかになります)も含めた5枚組のDVDBOXとして年末に発売。さらにさらに海外ではヴァンゲリスの書き下ろし新作1枚を含めたCD3枚組発売…。
と2007年は「ブレードランナー」再燃の年でした。

私にとってバイブルのようになったポール・M・サモン著の「FUTURE NOIR メイキング オブ ブレードランナー」までもがDVDBOX発売の経緯や後年のハリソン・フォードに対するインタヴューを追加してこれまた「ファイナルカット」ととして発売される始末。ほぼ文字のみで構成される600ページ近い内容はファン必読。製作現場にほぼ当初から立会い、その記録と公開されてからいままでの社会現象を見事にとことんミーハーにまとめた「ブレードランナー」の歴史書です。LOVEがなくてはこんな仕事は出来ませんね。わたしはというと97年にソニーマガジンズから発売されたとき、真っ先に買ったので新たに書き加えられた100数ページのためにもう一冊、辞書並に分厚いこの本を買うほど…
と、思っていましたが、たったいまamazonにて中古が安く出ていたのでカートに入れてしまいました(汗)



同じ本…追記が読みたくて結局二冊買ってしまいました…


さて、人間をも凌駕する能力と知能を持つ脱走アンドロイドを追う賞金稼ぎ(バウンティハンター)のSFがなぜこうまで人々をひきつけるのでしょう?「エイリアン」「グラデュエイター」と華々しい経歴をもつ監督リドリー・スコットのキャストやスタッフと衝突しながらも自分のヴィジョンの追求を止めなかった職人気質の仕事は良く語られますが、衝突しながらもそれぞれのスタッフが最良のものを戦わせた結果として、製作現場に集ったスタッフ・キャストの仕事のすばらしさがこの映画の背景を掘り下げるほど、明らかになっていきます。

前回のVOL.2でもふれた日本語・スペイン語・スワヒリ・フランス・中国・ハンガリーとごちゃ混ぜにした街の住民が話すスラング「シティスピーク」は脚本家のデヴィッド・ピーピルズのちょっとしたアイデアをガフを演じたエドワード・ジェイムス・オルモスが形にしたもの。ベルリッツに行って会話の断片をいろんな言葉に訳し、ごった煮にした結果というわけで、実際にどんなことをしゃべったのか本人以外判っていなかったのでは?…ヌードルバーでデッカードに話し掛ける冒頭のシーンが印象的ですが最後のセンテンス、「Cap.Bryant to GA MENI OMAE YO」これは「キャプテン ブライアント ガ オマエニ ヨー」の順序を壊したものと容易に聞き取れます(笑

監督リドリーもアメリカで撮るはじめての映画で真っ先に戸惑ったのは監督はキャメラを触れないという事実。しかし、ここでもまたこの映画になくてはならない人材との出会いをもたらしました。撮影のジョーダン・クローネンウェスって人、相当の「伝説の人」のようです。劇中屈指の印象的なシーン、タイレルのオフィスで映像が詩的に映るのはまさしく彼のカメラと光の職人技。
リドリーはこの部屋に水面に映える光のような不思議な光線の動きを取り入れ、ジョーダンは全てを計算に入れてキャメラに納めます。
「Do you like Owl?」で始まるレイチェル登場シーンですが歩きながら「I’m Rachael」と名乗る瞬間に下からレイチェルを横切る“影”…こんな些細な演出がこの空間の奥行き感を高めているなんて、なかなか素人の我々にはわかりません。もちろんこの瞬間に「やった!」とばかりジョーダンは助手にウィンクして見せたそうです。
つづくヴォイト=カンプテストシーンでもレイチェルの首筋から通って手元のタバコの煙に焦点を当てたライティングが彼のこだわり。デッカードのアパートでも窓の外から時折室内をなめる強烈なスポットが印象的ですが、これもジョーダンのアイデア。リドリーもこれには「まいった」と惚れこんだそうで以後他のシーンでも良くみられます。残念ながら97年にパーキンソン病で亡くなってしまいますが、聞けばデヴィッド・フィンチャ-もジョーダンに影響を受けたとか(se7enなんてまさにそうですね)…彼の技術が映画界に受け継がれ続けることを願います。

マイケル・カプランとチャーリー・ノッドによる衣装もまた、この映画の世界観を構築する大きな要素。ヌーヴォー、デコから40年代のジャズエイジまで煌びやかなドレスをまとった女性たちも目を引きますが、そこに加わったアジアンテイストと80年代パンクの意匠のごった煮。デッカードのツィードタッチの赤茶のジャケットやクリースの消えたパンツ、独特のピンタックを襟にあしらったトレンチなど決してフューチャー感満載でないところもリアリティがあります。
ほかにもレイチェルの微妙に異なるパターンを持つファーをパッチワークした超襟高のコートや中世のピエロのようなセバスチャンのジャケット、まるで繭のようなタイレルのダウン入りガウン、あきらかに高価にみえるタイレルの真っ青のシルクスーツなどなど…。この我々の日常とはちょっとズレたごった煮感が、あの劇中の街並みと夜の雨とネオンの中で非常にリアルに別の時間を体験させる点こそ才能のぶつかり合いを楽しめる偉大な作品たる特徴でしょう。

その背景になるセットデコレ-ターの仕事もハンパではありません。もともと工業デザイナーのシド・ミードの案でもありますが、細かなデザインを担当したのはローレンス・G・ポール。「勝手にいじると感電します」と書かれたパーキングメーターなんて劇中決して目にする事ない細部にまでデザインのこだわりは貫かれていて、ちょっと尋常ではない細かさ。TDK、ATARIなどなどの見覚えのある企業ネオンにまじって「烏口」なんて意味不明の漢字が街路を賑しています。さらに“雨”です。もともとバーバンクのオープンセットだったオールドニューヨーク・セットを使用していますが背景の空の抜け感を隠すために夜の撮影に限定、そして終始雨を降らせたとか…。めったに目にしない日中撮られたスチールでこのセットを見ると外壁に書かれた落書きの密集した異常さが目に付きます。漢字だけではなく「お○○こ」なんて落書きでは御馴染みのひらがなも混じり、その徹底した仕事振りには誰も省みないところまで手を抜かないプロのこだわりを感じます。






まだまだ紹介しきれないおそろしいほどディテール満載なそんな映画ですが、やはりビデオ世代の作品で繰り返し鑑賞できるようになったからこそ、その発見に皆が狂喜したのは容易に想像できます。才能のあるスタッフ達が監督のヴィジョンの実現に共に戦いながら、紆余曲折を経て誕生した最後の手作りSF(=CGを一切使用しない大作としては)…この映画についてよく言われることですが、ここまでの映画は二度と作れないと。確かにそうかもしれません。でもわたしは原作者のP.K.ディックや監督リドリー・スコット等の名がクレジットされている以上、次はどんな世界を見せてくれるのか?と、ひそかな期待をもっていそいそと劇場に行くのでした(笑)


May THE FORCE be with You!


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